老いと死

 あなたは少年の日、少女の昔、密林の王者ターザンの映画をご覧になったことはありませんか。
 最近にも作りなおされましたが、それではなくて元祖のものです。
 映画を見られなかったとしても、ターザンの名前はご存知でしょう。
 ターザンの俳優として有名であったジョニー・ワイズミュラーはまた、水泳の名選手でした。
 パリとアムステルダムの二回のオリンピックに出場し、合計五個の金メダルをとっています。
 百メートル自由形で、初めて一分の壁を破ったのも彼、ワイズミュラーでした。
 そのスーパースターも晩年は不幸でした。人々にだまされて無一文となり、スーパーで万引きをしてつかまったり、老人ボケがひどく、入院していた病院中に響くターザンの雄叫びをあげていましたが、84年に波乱の一生を終えたといいます。
 彼ワイズミュラーほどでなくても、社会の第一線で華々しい実績をあげ、人々から尊敬されていた人が、晩年ひどい老人ボケで家人の看護を受けている……そんな人を二人や三人ご存じでしょう。
 そして、その老醜の姿に、十年二十年先の自分の姿をダブらせて、慄然とされるあなた……。
 二千年、三千年前の人々の思いも同じだったようです。

◇大王の勢威も防げぬ老と死
 お経の中に次のような話があります。
 お釈迦さまが、波斯匿王に問いかけておられます。
 「大王よ。今、老いと死とが大王の上に押しかぶさっている。この時、大王はなんとされるか」

 この釈尊のお尋ねに、波斯匿王は恭しく答えています。
 「世尊よ。王者の威勢をもってしても、老と死とは何ともすることは出来ません。進みくる軍勢は止めることが出来ますが、この迫り来る老いと死とは何ともする術もありません。世尊よ。ただただ正しい法に従って禅をなし、功徳を積むほかございません。」
 釈尊は、この王の答えに微笑んでうなずかれたということです。

 今、私たちが受持し奉る妙法蓮華経は、すべての仏の深い深い教えの結晶の妙法です。
 なればこそ、この法華経に身をまかせ一心にお題目を唱える時、そこに無量の功徳がみんな集まってきます。
 その上さらに、善い行いを重ねて徳を積むことそれよりほかにないと波斯匿王は、……いや釈尊は教えられています。