貧しい男が、富豪の晩餐に招かれた。 最初のご馳走が出た。 大きな皿に盛った華美なものだ。 空腹だった男は、むしゃぶりついた。 「味はどうかね」 富豪は聞いた。 「見た目よりも、いま一つですな」 物足りなさを正直に告げた。 「そうだろう、これがなかったからな」 傍らの壷から白い粉を摘み出して、皿のご馳走にふりかけた。 素晴らしい味にかわった。 二番目の皿でも、同じことが繰り返された。 ひと味もの足りなかったご馳走が、その白い粉をふりかけると、たちまち美味になる。 三皿、四皿……同じことが繰り返された。 すっかり満腹になり、男は帰ることになった。 富豪は、家で待つ妻や子供たちに土産を持って帰るようにすすめた。 「今夜食べたご馳走で、いちばん美味なものを差し上げよう。 どれが良かったかね」 「それは檀那さま、あの白い粉ですよ。 あれを振りかけると、どれでも美味になる」 「……あれを持って行くかね」 富豪は、壷ごと白い粉をくれた。 家に帰った男は、家族を集めて皿を出させた。 「さあ、これから世界で最高にうまいご馳走を食わしてやるぞ」 と、白い粉をめいめいの皿に盛りつけていった。 だが、これを口にした妻や子供たちは、いっせいに顔をしかめて吐き出した。 塩だったのである。 宗教とはまさにこの塩であって、日常生活に調味料としてまぶしてこそ最高の味を出すが、主食のようにパクパク喰ったら吐き捨てなければならないばかりか、時には生命まで奪われてしまう───と教えている。 宗教への過熱した狂信をいましめた説話である。 |