日本人の勤労観、職業観はこのところ急速な変化を見せている。 転職が抵抗なく行われるようになってきたし、フリーターといった働き方も珍しくない。 若年層では、会社中心・仕事一辺倒は嫌われ、肉体労働は敬遠されつつある。 このような状況を、時代の風潮とか世界の流れとして片付け、これまで日本人が築いてきた勤労哲学や職業倫理まで失ってほしくないのであるが…。 勤労とは、単に生計の手段ではなく、人生に意味を与える重要なものと考え、働く事を自己の修行の道として倫理的に自己を律してきたのが日本人の伝統である(あった)。 近年、日本人の職業哲学や倫理の解明が部分的になされてきている。 ここでは、大乗仏教の縁と恩の思想からみてみよう。 自分を含めて、あらゆる存在を相依相関の縁の中に捉えた。 社会的に、私たちが職業を通じて縦横に繋がっている縁。 それゆえに、どの職業も重要と考え、肉体労働にも積極的な価値をおいてきた。 恩の思想の影響はもっと大きく、諸縁によって生かされていることに報いる為に、その行為としての職業活動が最重要視された。 信仰と一体となった職業活動こそ、報恩の最たるもので倫理的なのである。 そして、「正直」「勤勉」といった徳目として結晶した。 日本人の職業倫理は江戸時代に形成され、明治・大正・昭和と近代日本の社会に生き続けてきた。 企業家をはじめ各企業の経営理念の中核となり、サラリーマンをも支えてきたのである。 |