例えば、万年筆とか書類とか、紛失したと思っていたものが、しばらくし後になって思いがけない所から出てくることがある。
あの時、可能性のある所はすべて探し尽くしたはずなのに、と思いつつ改めて考え直してみると、そこは初めから、そんな所にあるはずがないと思い込んで探していなかった。
そんな場合がしばしばある。
お互いに日頃、他人との付き合いの中でも、そんな思い込みをして、相手との関係をこじらせてはいないだろうか。
後になって、ああそうだったのかと気付いたとき、万年筆や書類なら、「よかった」の一言で済ますことが出来るけれど………。
人との関係では、そうはいかない。
相手の気持ちも自分の気持ちも、そう容易に元には戻らず、取り返しのつかない事になりかねない。
思えば、怖いことである。
人を見る目を養って、人に対するしっかりとした自分の考えを持つことはむろん大事である。
けれどもその過程では、慎重の上にも慎重に。
思い込みに執われる事の危険性を、いつも忘れないように。