死後の世界を信ずるか

 読売新聞社が五年ごとに行っている国民意識調査の平成元年九月版に、『人間に死後の世界があると思うか』という設問がある。
 この質問に対して、「ある」と答えた人は、24.9%で4人に1人しかいなかった。
 『何かの宗教を信じている』人は28%、『宗教は大切なものと思う』が38.2%だとか。
 また、『家の中に仏壇・神棚などがある』人は82.8%だが、「しばしば仏壇や神棚などに手を合わせる」人は53.1%に過ぎない。
 つまり現代の日本人は、家の宗教を大事にして先祖を敬う人は多いが、自分自身から信仰を持つ人は少ないようである。
 信仰を持っていない人には、死後の世界は信じられまい。
 とは言え、信仰者のすべてが死後の世界を信じているわけではない。
 特に仏教者がそうだろう。
 仏教の死後世界観は、一様ではない。
 インド古来の輪廻転生説を信じている人や、各宗で説く浄土を信じている人が多い事は否めない───が、「信じる」とも「信じない」とも言えない人もまた少なくない
 ある僧が、
 「今の若い人たちに、極楽浄土の話をしても真面目に受けてくれません。
 今、浄土をどう説くか大問題ですよ」と話している。
 こういう場合、禅僧なら「地獄も極楽も、あなたの心の内にある」と言って済ませるのだろうが、いずれにしても現代の仏教者は「あの世」が説きにくくなったようだ。
 しかし、釈尊でさえ「死後の世界」を積極的に説かれなかったのだから仕方ない。
 信じるべきは仏法であり、大切なのは日々の行為なのだから。