コトナに喝を入れ得る者は

 「ことな」という新造語があります。
 見かけは立派な大人だが、内容の精神は子供並みの未開発人間の呼称だそうです。
 ちょうど、手を抜いた不良建築物が災害に弱いのに似ています。
 タクシーが交通量の少ないある住宅街を走っていますと、前方で一匹のかわいい犬が警笛に怯えてうずくまっています。
 運転手は舌打ちしながら車から降りてきて、犬を抱き近くの電柱のかげに下ろしました。
 見るからに栄養満点で毛並みの美しい犬です。
 車に戻ってきた運転手は、ギアを入れながら、
  「団地の犬なんて、だらしのないもんだ。
   食卓の上で震えていて、下へ飛び降れないんだから無理もない」
と言います。
 理由を聞きますと、
  「団地で飼うと、排泄物の始末に困るでしょう。
   だから排泄物が少なくて済む特殊な食品を食べさせるんです。
   もちろん排泄量も臭気も少なくて済むんだけど、骨格が弱くなるんだそうです。
   だから、飼い猫が二階から飛び下りて手足を捻挫したって言いますよ。
   猫の捻挫なんて聞いたことがありますか?」
 冗談半分に聞いたものの、笑えないシコリが残ってしまいました。
 美食に馴らされた現代人の排泄量の増減の程は分かりませんが、心身と共に背骨が軟化し退化しつつある事実は否めません。