寺報コラムから

先々代日省師のこと

 先達の足跡はとても重く、時代が変わり考え方が変化しても大切にしなければいけないと常々思っています。
 いつの時代も迷いが多く、苦悩に悶々とする今の私たちに解決の糸口を示してくれたり、指針や心の拠り所となるものと思うからです。
 先々代の本誓院日省上人は拙僧の祖父であり、当時の宗門管長でその威厳と尊厳の姿は瞼に焼き付いていて最も親しみを持つ尊敬する人物のお一人です。
 出身は備前市久々井の横山家。
 拙僧が幼少の頃にも、苦労話しは断片的に聞いていましたが、まとめた形で話されたことが二度あります。
 その一つは、八十八歳米寿を迎えたお上人を本山と大安寺で門徒の方々が祝って下さった際、その謝辞として話された時です。
 『これは録音しておかなきゃ!きっと貴重な記録になる』と思い、カセット・テープ・レコーダーとワイヤレス・マイクを用意して日省上人の傍らに添ったのを憶えています。

 直後、録音を確認しただけで正式に再生することもなく大安寺の建て替えを経て、テープの存在すら忘れかけていました。
 それが、日省上人25回忌を密かに祈念しようと思い立った時、テープの存在を思い出しました…。
 録音から三十一年を経たカセット・テープは、それなりに傷んでおり再生に耐えられるか分かりませんでしたが、一発再生+デジタル化で臨み、PCに取り込む事に成功。
 テープは3度目の再生に耐えられず破損してしまいました。
 本覚寺、霊源寺へもCD化したものを配り、大安寺でも無料配布したので持っておられる方も。
 42年前に語られたにも関わらず色褪せることが無く、今の私たちへのメッセージとも受け取れ、苦労話しに始まる内容も含蓄に富んでいると思います。
 拙僧の大切な教書の一つです。

寺報211号から転載