仏教語散歩

痘痕

 今はもうない伝染病に、天然痘というのがあって、昔は大変おそれられていた。
 死亡率も高いが、たとえ治っても、発疹のあとが残り、顔などは月面のクレーターみたいになる。
 このクレーターみたいなものを「あばた」と云い、「痘痕」という字が当てられている。
 実は、この「あばた」…インドの古語の“アルブダ”がなまったものであるといわれているのだ。
 「アルブダ」というのは、もとは、蛇とか、二ヶ月の胎児の形を意味するが、仏教ではさらに転じて皮膚にできる水疱の事を指した。
 そして、この言葉は、地獄の一つをも意味している。
 仏教では「八熱地獄」と並んで「八寒地獄」というものを説く。
 これは、上の方から段々と寒さが増えていく、酷寒の地獄のこと。
 アルブダ地獄は、この一番上に位置し、寒さの程度も一番軽い。
 しかし、寒いことに変わりはなく、この地獄にいると、全身に水疱(アルブダ)ができるという。
 おそらく、鳥肌のキツイやつなのであろうか・・・。
 そのために、アルブダ地獄と名付けられたのである。
 これが、どこでどう「あばた」になったのか分からないが、二・三○○年前のヨーロッパの医者が得意になってラテン語を使ったのと同じように、どこかの知ったかぶりのお坊さんが、天然痘の後遺症を、「ふーむ、これはアルブダと申してのう…」とか何とか言ったのが始まりかも(笑)。