法華経の世界 2

特殊な表記方

 私たちが現在用いている「法華経」という呼び名は、正しくは「妙法蓮華経」と言います。
 原題の直訳は、「正しい法の白蓮華の教え」と言います。
 「妙法」とは、優れた仏の教えという意味であり、また「妙法」という語には、人間の行う思考や認識を超越した現象といった意味が含まれています。
 ちなみに、「妙」と「不思議」とは、ほぼ同意語です。
 「蓮華」は、妙法の相(すがた)を表わす花ですが、蓮とは言っても日本のそれとは異なり、むしろ、睡蓮に近い花です。
 この花は、泥土から生じて濁りに染まらず、香り高い清浄な花を咲かせます。
 また「華果同時」と言って、蓮は、花が散ってから実がなるのではなく、花が咲くと同時に、中に実を持つのです。
 つまり、さとりを求める心を発したその時が、すなわち救われる時である───とする仏教の思想を象徴する花として尊ばれています。
 お経の名前は、その経文の内容を表わす「柱」であると共に、法華経の場合は「妙法蓮華経」という題目に、法華経全巻の内容が表わされているのです。
 そのため、古来より、天台宗の最澄や日蓮をはじめ、多くの僧たちが南無妙法蓮華経と唱えることを勧めているのも頷けます。
 お経の名前を唱えること───これを唱題といいます。
 「法華経」が難解なお経と言われるのは、何も書かれている文章やその内容が難しいから、と言うのではありません。
 そこに示されている教えは、確かに深くて計り知れないものなのですが、読むという上に於いては、誰にでも読むことが出来ます。
 しかし、何度も言うようですが、もし法華経に仏の教えがズバリ書いてあると期待して読んだとしたら失望してしまうでしょう。
 法華経に比喩が多用されているのも、裏を返せばそれだけ深遠な教えが、そこに表わされているからと思います。
 真実や真理などの非合理は、文字では表記できないのですから、それを敢えて文字で表そうとすれば、特殊な方法によらなければなりません。
 それが「比喩」と呼ばれるものなのです。
 それを念頭においてから法華経を読まないと、とんでもない誤解を招くことになるでしょう。
 このように、法華経は深い真理を多くの比喩によって表現している───という手法が分かると、比喩の読み方を学べば、法華経の思想も次第に理解できる道理です。